その街は幻
『…。』
あの人の声は聞こえなくなった。
「きさらぎさん…」
きさらぎさんを見た安心感からか、私は体から力が抜けた。
「ミカちゃん…!!」
「ごめんなさい…力が入らなくて……」
それを聞いたきさらぎさんは、悲しそうな顔で私を見つめた。
「…休んでてね、辺りを見てくるよ…!」
きさらぎさんはそう言うと立ち上がって行ってしまった。
私の方は立ち上がることもできず、気力も抜けたまま周りを眺めていた。
きさらぎさんが無事に戻ってきてくれることを祈りながら…
人形さんたちは今も、列を作って私達の近くに出来た歪みに入って行く。
しばらく道の端でボーッと休んでいると、きさらぎさんが戻ってきた。
「…休めた…?じゃあ行こうか…。大丈夫?歩ける?」
きさらぎさんは先ほどとは違う、穏やかな顔で私に聞く。
「え…はい……」
私はきさらぎさんの言葉に戸惑った。
(行くって、どこに…?)
「帰れるよ、きっと。あのロボットみたいな人たちに付いていけばね。」
「本当ですか…!?でも……」
私はあの人が気になった。また取り込もうとするんじゃないかって…
「きっと平気だ。さ、行こうか…」
きさらぎさんは私の言いたいことが分かったらしく、笑って私にそう言った。
「分かりました…!」
私はきさらぎさんの笑顔に安心して、きさらぎさんに支えられながら、その歪んだところまで行った。
人形さん達はみんなその先に行ったのか、もう周りにはいない。
「…わあ……」
歪んだ空間の先なんて見えない。
ゼリーみたいに見える空間が、壁みたいにポツンと浮いている。
「……。」
「…行こう…?大丈夫、一緒に行くよ。」
きさらぎさんはそっと私の手を取った。
本当に帰れるかな…こんな変なところに入って……。
私は不安になった。でもきさらぎさんは、今までずっと私を心配してくれた人。現に、きさらぎさんはこの場所で私を急かしたりしていない。
私は少しためらっていたけど、きさらぎさんの言葉を信じることにした。
「……。」
そっと、ゼリーのような歪んだ空間に手を入れてみる。
冷たいような、少し温かいような、そんな感じがした。
私は目をつぶって深呼吸する。
それから手を繋いだきさらぎさんと、ゆっくりと歪んだ所に入っていった。
「大丈夫?ミカちゃん?」
私の前を行ったきさらぎさんが声を掛けてきた。
私はゆっくり目を開けると、見覚えのある街のアーケードの陰に着いたことに気づいた。
「きさらぎさん、ここ、街に迷う前に降りた駅の近くなんです!」
ちゃんと、たくさんの人の姿も声も、電車の音なんかの物音もする。
「良かった…!…ここから帰れそう?ミカちゃん…?」
きさらぎさんが少しだけホッとした感じで言う。
「はい!」
日はまだ高い。
ここからなら、道を聞いてお店にだって、家に帰ることだってできる。
あの人の声は聞こえなくなった。
「きさらぎさん…」
きさらぎさんを見た安心感からか、私は体から力が抜けた。
「ミカちゃん…!!」
「ごめんなさい…力が入らなくて……」
それを聞いたきさらぎさんは、悲しそうな顔で私を見つめた。
「…休んでてね、辺りを見てくるよ…!」
きさらぎさんはそう言うと立ち上がって行ってしまった。
私の方は立ち上がることもできず、気力も抜けたまま周りを眺めていた。
きさらぎさんが無事に戻ってきてくれることを祈りながら…
人形さんたちは今も、列を作って私達の近くに出来た歪みに入って行く。
しばらく道の端でボーッと休んでいると、きさらぎさんが戻ってきた。
「…休めた…?じゃあ行こうか…。大丈夫?歩ける?」
きさらぎさんは先ほどとは違う、穏やかな顔で私に聞く。
「え…はい……」
私はきさらぎさんの言葉に戸惑った。
(行くって、どこに…?)
「帰れるよ、きっと。あのロボットみたいな人たちに付いていけばね。」
「本当ですか…!?でも……」
私はあの人が気になった。また取り込もうとするんじゃないかって…
「きっと平気だ。さ、行こうか…」
きさらぎさんは私の言いたいことが分かったらしく、笑って私にそう言った。
「分かりました…!」
私はきさらぎさんの笑顔に安心して、きさらぎさんに支えられながら、その歪んだところまで行った。
人形さん達はみんなその先に行ったのか、もう周りにはいない。
「…わあ……」
歪んだ空間の先なんて見えない。
ゼリーみたいに見える空間が、壁みたいにポツンと浮いている。
「……。」
「…行こう…?大丈夫、一緒に行くよ。」
きさらぎさんはそっと私の手を取った。
本当に帰れるかな…こんな変なところに入って……。
私は不安になった。でもきさらぎさんは、今までずっと私を心配してくれた人。現に、きさらぎさんはこの場所で私を急かしたりしていない。
私は少しためらっていたけど、きさらぎさんの言葉を信じることにした。
「……。」
そっと、ゼリーのような歪んだ空間に手を入れてみる。
冷たいような、少し温かいような、そんな感じがした。
私は目をつぶって深呼吸する。
それから手を繋いだきさらぎさんと、ゆっくりと歪んだ所に入っていった。
「大丈夫?ミカちゃん?」
私の前を行ったきさらぎさんが声を掛けてきた。
私はゆっくり目を開けると、見覚えのある街のアーケードの陰に着いたことに気づいた。
「きさらぎさん、ここ、街に迷う前に降りた駅の近くなんです!」
ちゃんと、たくさんの人の姿も声も、電車の音なんかの物音もする。
「良かった…!…ここから帰れそう?ミカちゃん…?」
きさらぎさんが少しだけホッとした感じで言う。
「はい!」
日はまだ高い。
ここからなら、道を聞いてお店にだって、家に帰ることだってできる。