あまりにも遅いから、もうアイツのことは忘れようと思います
空腹と、思い通りにならない虚しさと悔しさで、イライラが頂点に達していた。
「ねえ、お姉さん?」
私は、自分に話しかけられていると分かっていても、あえて無視をし続ける。
本当はその場からすぐ立ち去るのが正解なのかもしれないが、この時はそんな体力はなかった。目を瞑り、雨の音に集中しようとしたが……。
「あ、機嫌悪い?」
「……」
「ねえってば」
「うるさいなあ!」
近づいてくるのが分かったので、手で振り払う。すると、宙にみかん色の水が飛び散ってるのが見えた。
「あーあ、せっかく差し入れしてあげようと思ったのに」
そう言って男は、地面に落ちた瓶を拾い上げる。
みかんの絵が描かれているラベルだった。
「差し入れって……」
そもそも、なぜ見知らぬ男に差し入れをされなくてはいけないのか。
それに
「染み、どうしてくれるんですか……」
安物とは言え、それなりに気に入っていたワンピースと、つくはずがなかったみかん色の染みに、私の苛つきがますます募る。
「ちゃんと見てればよかったのに」
飄々とそう言うと、男は私が地面に置いていたインスタントラーメンが入った袋を持ち上げた。
「ど、ドロボー!?」
「は?こんなもん盗んで、人生無駄にするほど、俺、絶望してないし」
そう言うと、男は10歩程歩いて、雨が丁度当たる場所へ移動する。
そして、その場から動いていない私に一度振り返り
「来ないと、本当にこれ、もらうけど」
と、白い歯を見せて男は笑った。
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