東京血風録４ ダークサイド・イリュージョン

何を？
言葉の意味が解らなかった。
入ってこなかった。
遥の頭はフリーズした。

怜一は、遥の目の前まで進むと瞳を直視した。
遥の眼は焦点を失っており、視線はあわなかったが。
「落ちついて聞くんだ。これは現実だ。逃れる事はできない」
怜一は、自身にも言い聞かせるように冷静を保ちながら、丁寧にしっかり言葉を紡いでいた。
「僕はさっきまで一緒だった。看病してたんだ。疲弊憔悴してたから、ずっと一緒に側にいた。少しだけ話もしたけど、聞き取れないほどの声だったから、全て理解は出来なかった。すまない」

あぁ、この人は何を言っているんだろう。

儂は伊號丸である。
剣鬼であり、遥の黒檀の木刀に憑いている者じゃ。木刀を通じて遥の意思は読み取る事が出来るのじゃ。
何と言う事じゃ、遥の意思に精気が無いわい。色も無い。起伏が感じられない。
とてもじゃないが、数年の付き合いのある儂とて声をかけられない。
まさか、あの霧華が死ぬとは。
良き女性であったのぉ。

「遥君、僕はもう行かなくてはならない。この事を伝えに来た。君にも来てほしいのだが…。この状況は」
そう伝えた時、空気が歪んだ。
と、怜一は感じた。
歪みの正体。
走り込んだ黒ずくめの男が、突然飛んで蹴って来たのだ！

ボッ。
青白い炎が灯った。
遥の心の中に。

【ダメじゃ！遥殿！それは！】
伊號丸が叫ぶ！
心の声で。

憎悪。
それが青白い炎の正体。

堕ちていく、ダークサイド。