ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド この世の果て
第2章 境界
わたしは前よりも頻繁に店に顔を出すようになった。
彼のシフトは不定期(というか、父の都合で)だったので、用事がないときはつい、店に足が向いた。
会えた日は嬉しく、会えなかった日は残念な気持ちになった。
わたしたちは急速に親しくなった。
友達といるときより、彼といるほうが気負わずに素の自分でいられた。
わたしだけでなく、彼も同じ気持ちだったようだ。
「一緒にいると楽に息が吸える気がする」
会って5回目ぐらいのとき、そんなことを言ってくれた。
わたしは彼を〝シド兄〟と呼んだ。
「シド・ヴィシャスみたいだな」
「誰?」
「伝説のパンク・ロッカー」
「気に入らない?」
「いや。いいね。気に入ったよ」
そして、彼はわたしを〝エイミー〟と呼ぶようになった。
えみを“えいみー”と少し伸ばし気味に言われるのが気に入っていた。
外国の女の子の名前みたいで。
シド兄はとても物知りだった。
専門の音楽だけでなく、美術や文学、それに映画にも詳しかった。
古い日本の小説、たとえば内田百閒や稲垣足穂なんかが面白いと教えてくれたのもシド兄だった。
彼と出会ったことで、わたしの世界は一気に広がった。
彼のシフトは不定期(というか、父の都合で)だったので、用事がないときはつい、店に足が向いた。
会えた日は嬉しく、会えなかった日は残念な気持ちになった。
わたしたちは急速に親しくなった。
友達といるときより、彼といるほうが気負わずに素の自分でいられた。
わたしだけでなく、彼も同じ気持ちだったようだ。
「一緒にいると楽に息が吸える気がする」
会って5回目ぐらいのとき、そんなことを言ってくれた。
わたしは彼を〝シド兄〟と呼んだ。
「シド・ヴィシャスみたいだな」
「誰?」
「伝説のパンク・ロッカー」
「気に入らない?」
「いや。いいね。気に入ったよ」
そして、彼はわたしを〝エイミー〟と呼ぶようになった。
えみを“えいみー”と少し伸ばし気味に言われるのが気に入っていた。
外国の女の子の名前みたいで。
シド兄はとても物知りだった。
専門の音楽だけでなく、美術や文学、それに映画にも詳しかった。
古い日本の小説、たとえば内田百閒や稲垣足穂なんかが面白いと教えてくれたのもシド兄だった。
彼と出会ったことで、わたしの世界は一気に広がった。