√セッテン
「来週末は花火行くんだろ? そのときになんか釣れよ」

「モチロンそのつもり。試験が終われば花火大会! それで夏休みだこのやろー!うしゃ、真剣に勉強する」

河田は言って教室を出て行った。

あいつがそう言ったからには、完全に勉強漬けだろうな。


俺も少しはやっとかなきゃな。

物理の教科書と参考書を出して、ページをめくる。

シャーペンを回しながら、暗記していく。

物理も結構好きなんだけど、余計なこと考えちゃうから手間かかるんだよな。

運動の法則の摩擦力とか色んな場合での計算とかしたくなって、進まなくなる。

敦子はそんなの数字にしなくても、生活には困らないと叫んでいたが

世の中の現象が、数字や公式で表せるなら、面白いって思ったりはしないんだろうか?

あやふやなものばっかりの中で

ハッキリと定義できるものなんてこの世界は少ない。

数学はそれを可能にする。

表そうと思えば、なんでも式にして答が出せる。

……面白いよな?

俺が変なわけじゃない、と思う。

「潤、今物理やってるの?」

山岡に声をかけられて、顔を見ずに頷く。

「次の自習の時間さ、よかったら数学教えてくれる?」

「いいよ」

「よかった。どうしても一カ所理解できなくて」

去ってからやっと顔を上げて山岡を見ると

後ろ姿の山岡が席に戻る姿だけ確認できた。

……今、なんか香りしなかったか?

呆然としてると、山岡がやってきた。

手には教科書とノート。

前の席に座ると、丁度予鈴が鳴った。
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