√セッテン
「潤のおかげだから」

山岡は言って立ち上がる。

また柑橘系の、いや、オレンジの香りがした。


「先に戻ってるね」

あ、と声を掛ける前に山岡の姿は消えていた。


額に触れた山岡の唇の感覚


意図が計りきれず黙した。

「あ、潤~!みっけ! クラス行ったら保健室だって言うから、怪我でもした?」

いや、違うと適当に答え、手にしていた消毒液をスチールラックに戻す。

「そ、ならいいんだけど、あのね、霧島さんにアポ取れたよ!」

「本当か? 間に合わなければ俺が今日電話しようかと……それでいつ? 会えるって?」

「今、出張してるんだって。だから明後日……丁度試験の間の土日だね」

「もっと早く帰ってきてもらえないのか?」

「うん、死の待ち受けのこと話したら、すぐにでも行きたいって言ってくれたんだけど……」

しょうがないよな、無理は言えない

「千恵もね、試験中は、自分の試験のことだけ考えて欲しいって。まー私なんかはもー、赤点が目に見えてるから! 今更どうのこーの、ってことはないんだけどさっ」

「そういうとこ、強がりなんだよ、山岡は」

「…………」

敦子が急に黙して、視線を落とした。

「……帰るか。お前、明日の試験大丈夫な訳?」

「え? あぁー まぁ、ほら」

「ダメなんだな」

「ハッキリ言うなっ!」

「明日お前んとこ、何だっけ?」

「……地学と現国」

しょんぼりと話す敦子に、思わず笑いが漏れた。
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