√セッテン
まさか

女の腕でそんなことできるわけない。


そもそもこいつ

こいつは……


女は エタリ、と笑った。

その笑顔があまりに狂気に満ちていて、一瞬失神しそうだった。


『ねぇ』


声はまた、唄うようにうわずった。

床に血の滴を落としながら

『私をここから出して』


ダメだ

『ここよ…………見て』

伸ばされた手の先には、本来白い爪がついているハズなのに

そこには白磁の爪はない。

はげた爪の先を柘榴のように熟れた血の塊があり

今傷つけたばかりかのように、雫が垂れた。


恐怖と錯覚の合間をうねうねと移項を繰り返す。

どちらに行っても、答えなど出ない。

やがて薄らぐ意識に、女のガラスの瞳が不気味に細くなった。

『ねぇ……ここ……』

なんで、なんでこんな状況になってるんだ。

俺は幻を見てる。そうじゃなきゃおかしい。
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