√セッテン
黙って霧島悠太を見つめていると、彼のサングラスの奥にある色素の薄い瞳が瞬く。

「色んな噂の先駆けになって、ある時は曲がった情報を流したりもした。話を盛り上げるために真実を曲げたりもしたわけだよ」

「死の待ち受け避けの画像のように、ですか」

「そうだね、あれは真っ赤なニセモノだよ、でもあれを公開していた意味はあるんだ」

霧島悠太は言ってウェイターを呼んだ。

決まった? と視線を投げてくる彼に、俺は黙って頷いた。

「ブレンドと」

「オレンジジュースを」

ウェイターが注文を覚えて奥へ消える。

薄暗い喫茶室コートダジュールには、静かにジャズが流れていた。

「意味とは、キミと同じ。死の待ち受けを解き明かしたかった」

「にしても、ずいぶんと早く死の待ち受けの存在に気が付いていたみたいですね」

俺は隣の机から、灰皿を掴んで霧島悠太に差し出した。

「ムーントピックの事件後にはもう、死の待ち受け避けの待ち受けは存在していた」

「あぁ、そうだよ。あれは……そう、ムーントピックで学生3人が亡くなってまもなく作った」

灰皿にタバコを押しつけると、霧島悠太は2本目を取りだして

バチ、とジッポに火を呼んだ。

「僕は彼らと面識があったから、人様より情報入手が早かったんだよ」

「……つまり、あなたは俺より早く状況を掴んで、死の待ち受けを追っていた。それもごく身近な場所で」

「そう、だからキミの力にはなれる。そして僕もキミの見てきたこと、考えたことにはすごく興味がある」

取引といこう、と霧島悠太はまっすぐ俺の目を見た。

「……取材という仕事抜きで、話ができれば最高なんですが」

最悪なのはそれだ。

話をした感じでは霧島悠太は頭の悪い人間じゃない、あしらいが分る人だ。

問題なのは、山岡や敦子のことを、おもしろおかしく記事されるということ。

死んだ山岸絵里子や森先輩も、喜びはしないだろう。

「僕はこの仕事を、プライベートと割愛して進めてる。だからこうしよう」
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