√セッテン
カーテンを閉めると、ビデオの暗い画面にノイズが走って、人のざわめく音と映像が入った。

人の数は多くない。

一度、ギターの音が入る。

奥に、霧島悠太の顔があるのを確認する。

彼はベースだった。

カメラの調整も終わったのか、正面をやっと映した。


ガラスの瞳

緩いウェーブの黒髪は、ライトのせいか少し茶色い。

前髪はガラスの瞳の上でまっすぐに切りそろえられ

その前髪の上には、生花で編まれた花冠。

スタンバイで立ちつくす姿をくるむのは、シフォンの効いたドレス。



「……キレイだ」



ぽつりと零した言葉に、敦子が振り向いた。

曲は照明が入って、すぐはじまった。

「声……きれいだね」

山岡と河田の声が隣で聞こえる。

蔵持七海の細い体から、どうやってこんな強い声が飛び出てくるんだろう。

身を切り裂くような歌詞

茨でも纏いながら、血を流しながら唄うようだった。

低く、高く跳ね上がる声

残酷な童話のような、切り裂くような現実を唄う。

まるで泣いているようだ。

たった1曲だけだというのに

恐ろしほど汗をかいた。

頭の中でまだ、ドレス姿の蔵持七海が揺れている。
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