√セッテン
「私、本当はすごく怖い。試験なんて投げ出して、とにかく安全だって思えるところに行きたい」

山岡はぎゅっと握りしめた両手をそのままに続けた。

「試験どうでもいいなんて、お母さんやお父さんが聞いたら怒るだろうけど、でもそれくらい不安になってる」

それは、当たり前のことだと思う。

「でも逃げずにこうやっているのは、色んなものに負けたくないから。恐怖にも、現実にも。潤も、そうなんだよね?」

「そうだな、近いかもな」

俺は……

挑まれている、と思った。

死の待ち受けが表示されたケータイを見たとき。

俺の中の何かが、死の待ち受けにそう感じたのを覚えている。

この計算を止めてみせろと、あざ笑われた気がしたのだ。


「千恵~お風呂開くよ~」

敦子の声が玄関付近から聞こえてくる。

山岡は、はっとして背後を見た。

「あ、行ってくるね、ありがとう」

山岡が廊下の奥へと消えていく。



一度、ため息をすると、俺は再び教科書へ視線を戻した。

今回の範囲は、やけに広く感じた。



広がっていく死の待ち受け

止める方法など、本当にあるんだろうか。

問題はいくつも山積みだったが、その整理は寝る前にでもしよう。


シャーペンをノートに走らせながら、頭のからっぽの部分で、ぼんやりと蔵持七海の姿を投影した。


今、蔵持七海は何を思って

何を歌っているんだろうか……

< 152 / 377 >

この作品をシェア

pagetop