√セッテン
「……山岡、に?」

「千恵は、私が潤のこと好きだって知ってるけど、でも潤が好きだって」

「……」

「邪魔しないって、ただ、思ってるだけだからって。なにそれ……私に遠慮してるってこと?」

敦子の言葉に、急に熱が籠もった。

大きな黒目には、涙も滲んでいたし、悔しさや苛立ちに揺れていた。

「遠慮なんてされなくたって、私、負けないよっ」

敦子は言って、大きく拳を上下させた。

「千恵は、潤が私のこと好きになってくれないのを知ってる。私が1人で恋愛ゴッコしてると思ってる」

「山岡はそんなこと」

「思ってないって、断言できるの? 人の心に1か0かみたいなはっきりとした答えはないよ!」

敦子は俺の言葉を断絶して続けた。

「怖かったんだよ、不安だったんだよ、だから気になってしかたなくて、千恵に潤のことが好きか聞いた、聞いたら、もう、我慢できなくなって」

敦子は、そのまま、声のトーンを落として、ケンカしちゃった、と呟いた。

「本当は私、全然弱いんだよね、強がってただけ。千恵が潤のこと好きだって言ってくれたのに、ハッキリしたっていうのに、どんどん怖くなった」

敦子は泣きながら続けた。

もういい、と言っているのに止らなかった。


「もう、私は潤にフられてるじゃん。希望ないじゃん。でも千恵は」


「泣くな」


「無理だよぉ………っ」



「お前に泣かれると、本当に困る」

「……たまには、敦子だけのために困ってよ! なんで……どうして私ばっかりこんなに潤が好きなのかなぁ? 他の人を好きになれば、こんなに泣いたりしないで済んだのに」
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