√セッテン
「よし、敦子に謝ろう……謝らなくっちゃ」

山岡がケータイを取り出す。

「あ、敦子はそこだから」

俺は公園から見える堀口記念病院を視線で示唆した。

「病院?どうしたの?」

「車にひっかけられて、足をちょっと痛めたみたいで今処置してもらってる」

「うそ、大丈夫なの? 試験明けには県大会に向けての練習があるって言ってたのに」

「車は徐行してたから、大事には至らないと思う」

ベンチから立ち上がって、病院へ足を進める。

山岡もケータイをしまって、後についてきた。


「あのね、さっき河田君からメールがあったの」

「河田から?」

「黒沢は俺みたいに器用じゃないから、多少は多めに見てやって、って」

「余計なお世話だ」

「ふふっ、言うと思った」

「恋愛に関しては、河田は器用すぎるくらいだからな」

病院の処置室に入ると、敦子がいた。

山岡が居場所なさげに待合室でウロウロしているのを捕まえて、敦子に突きだした。

「あ、敦子……」

「千恵」

敦子は包帯をした足に靴下を絡ませながら手を止めた。

「あ、あの」

山岡が視線を迷わせていると、敦子が言葉を遮った。

「千恵、ゴメン。私、言い過ぎたよ。千恵が潤のこと好きかどうかって、聞いたのは私なのに、勝手にキれて、千恵傷つけたよね」

先に言葉を奪われて、山岡は、少し小さくなった。

「本当にごめん。どうにかしてた」

「あ……敦子、その……」

山岡は懸命に言葉を選んでいるようだった。

敦子はかかとを潰したローファーを履いて、少し足を引きずってこちらへ向かってきた。

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