√セッテン
「私もごめん、敦子がどんな気持ちで潤のこと思ってるか、想像くらいできたのに……」

山岡がうつむくと、敦子はそっと手を回して山岡を抱きしめた。

「いいよ。私も、千恵もどうかしてたんだよ、絶対焦ってた、色々」

敦子は死の待ち受けのことを指して言っているのだろう、視線を下げて続けた。

「死ぬかもしれない、ヤバイって……私かなり焦ってるんだ」

時間のせいか、病院の入り口にいつもなら鈴なりになっているタクシーが1台もない。

タクシー待ちをしている最中に、敦子は紅茶を飲みながら山岡を見た。

「急に、思い通りにいかないこと全部嫌になってきて、余計な不安とか抱えてるのが辛くなった。でも、さ。自分が不安だからって、辛いからって誰かにあたって言い訳じゃないよね、そんな感情に負けたら、√の女の思うつぼだもん」

敦子の言葉に、山岡は静かに頷いた。

「色々言っちゃったけどさ、今は、私も、千恵も、死の待ち受けのことを真剣に考えなくちゃいけない、そうだよね」

「敦子にしてはまともな判断だな」

「一言多いよ」

敦子は松葉杖を片手にふん、と顔を背けた。

その仕草は、いつもの敦子だった。


すごいよ、敦子は。

山岡が小さくそう呟いた。


敦子を送りがてら、タクシーに乗り込む。

真ん中にされたので、運転手との会話が自動的に俺の担当になった。


敦子の家の傍にある百貨店まで行くように伝えると、タクシーが動く。

「今日、ライブハウス探索はどうするの?」

敦子の言葉に、お前は無理だろと告げる。

「そだね、これこそまさに、足手まとい」

「俺は行くよ。霧島悠太と堀口俊彦が来てくれるし。時間もない」

「敦子が行けないなら、代わりに私がんばるよ」

山岡は言って手をぎゅっと握りしめた。

「うん、千恵お願い」

山岡と敦子はアイコンタクトをして頷いた。

女の友情というのは、どういう経緯で回復するのかイマイチよく分らないが

多分この回復の公式は、俺には一生解けない気がする。
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