√セッテン
「こうしてるだけでも、幸せなんだよ。でももっと幸せになれる階段があるってすごいよ」

山岡は嬉しそうに言った。

「ちなみに、山岡は俺と付き合ったとして、何して欲しいんだ?」

付き合うってことは、お互いへの干渉を確約するようなものだ。

あとは、理屈ではない感情的な束縛ができる

ってそんなとこだろうか。

「え?な、何って……」

山岡は驚いて視線を上へ投げた。

「そ、そうだなぁ、今度こそちゃんと一緒にクレープ食べたり、進学のこと相談にのって欲しいし」

「なんだ、そんなことならいつだってしてやれるだろ」

「え、ほ、本当?それはそれで嬉しいな」

「敦子にもその謙虚さを見習って欲しいよ」

山岡は、一体何を要求されたの?という顔をしたが、卒倒されても困るのでさらっと流した。

敦子のわがままを山岡が言うようになったら、そう考えると少し恐ろしかった。


「こんばんは、黒沢君」

改札から声がかかる。

レトロなシャツを着た霧島悠太が手を振って歩いてきた。

山岡を紹介すると、可愛いね、と霧島がありがちな社交辞令を投げた。

暫くすると、堀口俊彦がやってきた。

「堀口さん、お疲れ様です」

「あぁ、遅くなった。後輩に、小さなライブハウスとかの情報を貰ってた」

相変わらずドッシリとした印象の堀口俊彦だったが

気のせいだろうか、日を追うごとに、痩せているように見えた。

「じゃあ、行こうか、リストコピーしてるから、二手に分かれよう。7時半になったら、コートダジュールに集合」

霧島は言って、俺にリストを手渡した。

「どうやって分かれようか、顔見知り同士にしておく?」

日曜日のライブハウス探索で、すでに霧島悠太と堀口俊彦は顔見知りだ。

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