√セッテン
「俺はどっちでも」

「じゃあ、君と話がしたいな」

霧島は言って、俺のとなりの山岡を見た。

「私は霧島さんと、ね?」

頷いて、店舗の分担をする。

西口にあるライブハウスは全部で15件。

狭い繁華街に、なんでそんなにあるんだとツッコミしたくなったが

二条はジャズバーや音楽の著名人が住んでいたせいもあり、大小のライブハウスが点在する、らしい。

俺は音楽は聴き専門だからよく分らないが。

「7時半に、また」

山岡が言って、霧島悠太と交差点を歩いていく。

軽く手を振って見送り、自分のリストをチェックした。

「堀口さん、立幸館ってもう夏休みですか?」

PARCOの前を通って、学生があふれかえる遊歩道にさしかかる。

「あぁ、昨日からな」

「じゃあ、もう部活は引退ですか」

「そう、今引き継ぎ作業で色々やってるけどな、もう高校生活も終わりだよ」

堀口俊彦は細い目をさらに細めて言った。

「進学ですか?」

「あぁ、K大推薦を狙ってる。今担任と面接の練習をしてるとこだ。景と一緒に……行こうって約束してた大学なんだ」

堀口俊彦は言いながらライブハウスの中に入った。

カウンターで何か話をしていたが、俺はその間にロビーを見回す。

赤い絨毯に銀色のシャンデリア、死の待ち受けに表示されていたものとは違う。

ここではない。

何度か同じ探索を繰り返す。


ふと、雑踏から空を見上げると、月が輝いていた。

まだうっすらと明るい空に、少し赤い月。

「黒沢、次行くぞ」

堀口俊彦の言葉に即されて、次の店へと足を進めた。

2人で話をするのは久しぶりだった。
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