√セッテン
彼はひどく落ち着いていて、淡々としていたが

時折、初めてムーントピックで会った時のような鋭さが見え隠れしていた。

堀口俊彦の憤慨や悲しさは、自分のためではなく、ただ一点、渋谷景のためだけ。

「まだ、渋谷さんのこと」

「好きかって? たとえ死んでも、俺にとっては大切な奴だったんだよ」

「堀口さんは、自分に死の待ち受けが出てることに怯えたりはしない、不思議ですね」

「俺は、自分に表示されてもいないのにそこまで真剣なお前の方が不思議だね」

数式に挑まれている気がしたから……

などと言ったら、堀口俊彦は首をかしげてしまうだろう。

「いつ……自分のところにやってきてもいいように」

「お前の身内も表示されている奴、多いしな。今日来た、山岡さん?あの子が一番ヤバイんだよな」

「えぇ、残されたのは、あと3日です」

「……景や、森真由美みたいな姿には、させたくないな」

ふと、敦子の顔が浮かんだ。


森先輩の葬式

敦子が最後に先輩に送った言葉

『また電話下さい、いつでも出ます……絶対出ます』

棺に、細い指を乗せて、ハンカチを濡らしながら

『私、先輩の電番、ずっと消さないから……』

森先輩という名前と一緒に、焼き付いて離れない。


「俺は、景の葬儀、出られなかったんだ」

「え?」

「現実だと、認識できなかった。明日になれば一緒に学校で会って、夜にはムーントピックで、犯人を待つ、その繰り返しができると思いこもうとした」

だけど、と堀口俊彦は静かな間を置く。

「死の待ち受けが自分に表示されて、それで景はもう死んだんだ、って念押しをされた気分になった。気分はもう……最悪だった」

もし、山岡が死んだら俺はどうするだろう

もし、敦子が死んだら俺はどうするだろう
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