√セッテン


「ハイ、千恵です」


声を抑えて、山岡が電話に対応する。

山岡が、口パクで、「家から」と伝えてきた。

ふと、腕時計を見ると、時計の針が20時45分を指していた。

「もう、お開きかな?」

霧島悠太の言葉に、堀口俊彦はやるせなく頷いた。

「お前達、まだ試験期間なんだよな」

「えぇ、明日まで」

「じゃあ、もう帰った方がいい。俺はまだ、霧島さんとライブハウスの検討とか、蔵持の事とか、整理するから」

「そうですね、あまり遅くまで山岡を外に置いておきたくないし」

「明日、昼1時に駅前で集合。いいかな?」

「はい、また、何か気づいたら連絡します」

俺は自分のカバンと山岡のカバンを持ち上げて、電話中の山岡の背を押して、コートダジュールを後にした。

喫茶室コートダジュールを出ると、さすがに空は暗く色を落としていた。

夏のせいか、まだ空気が昼の優しさを残して

繁華街はこれから、という様子でネオンを輝かせている。

「送るから」

山岡に一言だけ告げて、駅へ歩いていく。

改札を潜って、ホームへ続くエスカレーターへ乗る。

山岡の視線は階段に向けられ、少しぼんやりしているようにも見えた。

まぁ、あれだけ濃い話を続けられれば、こういう反応にもなるだろう。

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