√セッテン
堀口俊彦の後輩に、寺田笙子という女子がいるという。

彼女は蔵持七海の家の前に住んでいて、幼少から彼女と接点があったそうだ。

中学は離れていたが、蔵持七海が立幸館に入ったことで細々ではあるが、再び交流が生まれたという。

女のカンというのだろうか……

寺田笙子は、蔵持七海が思いを寄せていた人物を、薄々と感じ取っていたらしい。

その人物は……


「吉沢アヤト」


堀口俊彦は、冷えたコーヒーをテーブルに置いてハッキリとそう言った。


一通りの話を聞いたあと、霧島悠太がやってきた。

いつもと違う茶色のサングラスに、サスペンダーと赤いシャツが印象的だった。

「いえ、あの、蔵持七海のことで1つ分かったことが」

堀口俊彦がイスを引いて霧島悠太を座らせた。

俺にあてた説明を、もう一度繰り返すと、霧島悠太はあからさまに目を丸くした。

「七海が、吉沢君を? 吉沢君が七海をではなく?」

「えぇ、霧島さんは寺田笙子という学生知ってますか?」

「ショウコ……ショウコ……あぁ、家の前の書店の娘さんのことかな」

心当たりはあるらしい、霧島悠太はペペロンチーノを頼んで、水を口にした。

「ハッキリと蔵持が寺田に言ったという訳ではないみたいですが、寺田が言うには……」


"七海ちゃんが、同い年の男の子のコトを嬉しそうに話す姿は初めて見た……男友達に対して、大切な友達だと言うのも初めて聞いた"


と、言ったという。

「少なくとも、その他大勢、という認識ではないことは確かですね」

俺の言葉に、霧島悠太はぎこちなく頷いた。
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