√セッテン
「え? ……あ、ぅん……そうみたいだね。私は、来週からのコースにしたんだ」

「来週? なんで? 」

「花火大会……ゼミとか入ったら嫌だから」

「あぁ、そういうこと」

「楽しみなんだ……花火」

「顔みれば分かるよ」

子供のように微笑む山岡に、こちらも笑顔が零れた。

「私ね、実はよく学校の屋上行くの、人があまりいない時間に」

「屋上? サボりに?」

「違うよ、河田くんじゃないんだから」

山岡はクス、と笑って続けた。

「去年、夏休み中の強化講習で学校に来てて、1人遅くまで残ってたんだ……他のみんなは花火大会があるから帰っちゃって」

「あぁ、ま、みんな花火大会行くのは普通だろうな」

「私、花火が上がった音で今日は花火大会なんだ、って気が付いて」

窓から見える花火に、山岡は目が覚めるような思いだったらしい。

「走って屋上まで行ったの。そしたら……花火が……すごくキレイだった……」

山岡は、思い出すようにして言葉を続けた。

「去年だから……あの時屋上に、潤もいたんだよね?」

「あぁ、いたかもな。俺、途中から来たから」

「花火の鮮やかさが、忘れられなくて、あの時にあった色んな悩みが吹っ飛んだんだ。
だから花火の日じゃなくても、屋上に行くと……新しい自分に会える、そんな気がして」

そこで、潤に

山岡は小さく言って、照れ笑いした。
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