√セッテン
「山岡も、可愛いよ」

「え? 」

「女って、なんかプリクラには可愛く写るよな。これ、なんでなんだろうな。敦子の凶暴性とかプリクラには全然写らない」

山岡は俺の言葉に、ビミョウな顔をしたが、定期券のケースを受け取りながら苦笑した。

「写真なんてそんなものだよ。私たちが死の待ち受けを見て、はじめて√の……蔵持さんを見たとき、怖いとか、そういう気持ちしか持たなかったのと同じで、写真だけじゃ、中身まで写らないもん」

「逆手にとれば、それがいいんだろうなー」

「……」

「……ん、何?」

俺をじっと見つめる、山岡の視線に首をかしげた。

「潤、あんまり気のないオンナノコ相手に、可愛いとか言うのはよくないよ」

「?」

「さっき言ったでしょ、ビ、ビックリしたんだから」

山岡は顔を真っ赤にしながら、一生懸命声を絞り出した。

「じゃ、私、か、帰るね。ちゃんとタクシーで帰るから!」

山岡は言って急いで病室から出て行った。

「あ、おい」

タクシーのトコロまで送る、と言いたかったが、間に合わない。

急いで出て行きながらも、丁寧にドアを閉めていくあたり、敦子と違ってお嬢さんらしい。


しかし


「可愛いって、禁止用語……?」

フツー、喜ぶよな?

女の言葉の受け止め方は、本当に多角的で困る。

こっちも相手の調子を伺って声をかけなきゃいけないしな。

……でも、まぁ、今の山岡には、気を遣うべきだったかな。

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