√セッテン
正面玄関は施錠していたので

中に入ることはできないはず。

というのが、施錠を担当した警備員の言葉だった。

看護師も正面玄関は閉めたとハッキリ言っていた。

だが、俺の投げつけた消火器を取り上げた警備員が、中に閉じこめられていた山岡を確認していた。

原因は、施錠システムと、警備会社のシステムの異常ということで、俺が割ったガラスの賠償請求はなかった。

加えて閉じこめられたことで、大けがを負った(閉じこめられたからなったワケではないんだが)山岡に、病院側では手厚い治療をしてくれた。

賠償請求こそはなかったが、俺は警備員に危ないもの投げるなと頭を叩かれた。

ガラスが割れて、中で飛び散ったら、山岡が怪我をするだろうということだったのだが……

看護師が山岡の家族に電話で連絡をしている横で、俺は椅子に座って山岡を見ていた。


「さっきと、位置が逆だな」

「そうだね」

山岡は、点滴から俺に視線を戻して、力なく笑った。

「怖かった」

「……俺が外まで傍にいなかったから……悪かった」

今でも、蔵持七海のあの鋭い眼光が頭に焼き付いて離れない。

あれは、蔵持七海だ。

「違うよ、潤がいたから私は」

山岡は言って急に目から涙を一筋落とした。


「あれ? ……やだ、今更、涙……」


山岡の声が少し震えていた。

点滴のチューブが伸びる手の甲を避けて、指先にそっと手を添える。

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