√セッテン
「これ、落ちてた」

汚れた定期から、プリクラがはみ出ていた。

俺と、山岡、敦子、河田の4人がコチラを見て笑っている。

「……目を、切りつけられるかと思った、大切なもので」

紙はよく切れるからな。

あの勢いでスライドされてたら、網膜を傷つけることなど簡単だろう。

「……さっき、山岡が自分に電話するとは、思わなかった」

「ウン、ずっと考えてたんだ。もし、私が、最後の最後にできることがあるなら、何だろうって……」

自分のケータイから、自分へコールする。


着信履歴には残らないが、発信履歴には残る。


2倍になり増える√の呪いが、いっとき形を変える。


「あんな強気な山岡が存在するなんて思ってもみなかったよ。殺してみろーなんて、まるで敦子だな」

「……」

山岡は顔を真っ赤にして、俺から視線を外した。

「でも、潤が助けてくれたんだよ。守りたかったんだ、潤のこと。ずっと守ってもらってたから、潤にだけは、こんな思いしてほしくなかったから……」

山岡は、一呼吸置いて続けた。

「私の今の発信は、敦子が怪我した時に、潤に掛けた電話だから……」

お互い、しばらく無言だった。

そっと繋いだ手を離して、椅子から立ち上がる。

抵抗なく解放された手を、山岡の声が絡めて止めた。

「潤」

「何?」

「私、前に言ったよね。大切な人は、自分が死んだって守りたいと思うって」

「あぁ」

「私は、何があっても、潤には死の待ち受けを表示させたりしないよ、死んだって」

「不吉なこと、言うなよ、信じてくれるんだろ俺のこと」

「信じてる。だから傍にいなくても、傍にいてくれているみたいに思ってる。だから最期の最期になったって、電話したりしないよ」

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