√セッテン
山岡の瞳は真剣で、言葉には力が籠もっていた。

小さく、山岡は続ける。

大切な人を守りたいって気持ち……誰にだってある気持ちは……

鼓膜を小さくくすぐるような小さな言葉は、やがて拡大する。

「蔵持さんだって、同じだったはずだよね……?」

俺には確信ないままだったが

山岡の気持ちを考え頷いた。

「両親来るだろうし、俺、戻るから」

ドアを開けて、締め切らずにそのまま廊下へ出た。

親友の池谷美保と、吉沢アヤト、そして甘川充

蔵持七海は死の待ち受けで殺してる。

蔵持七海に、山岡のような心根があったのか、正直疑わしかった。

霧島悠太が、信じている蔵持七海の姿こそ

作られた顔ではなかったのだろうか。

蔵持七海の持つ本当の顔は、抑圧された幼少時代に作られた攻撃的なものでは?

それを隠すために、無垢で純粋な仮面を被っていたとしたら?


もう、時間がないと分かっているのに

蔵持七海のことを考えるのがひどく怖かった。

病室へと向かう足が自然と止まった。


「なんで、俺が怖がるんだ」


違うだろ。

怖いのは、山岡や、敦子や、堀口俊彦で


俺は

俺は計算を止めちゃいけない。

挑まれてるのを、途中で挫折してどうする。


俺は緑の明かりで照らされた廊下から、自分の病室へ入るとカバンのサイドポケットから定期入れを確認した。

そのままカバンを掴んで

サイドテーブルの上に載っていたオレンジジュースの残りを一気に飲み干して、病室を後にした。

血液検査の結果を待っていたら朝日が昇る。

もう時間を無駄にはできない。

来た道を戻るようにして病棟を出た。
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