√セッテン
「河田? 黒沢だけど」

『お? 黒沢? さっきから電話してんのにお前さ』

「敦子にケータイ取られた。それで、お前今ヒマ?」

『え? 取ら? えとな、これから? そりゃ、まぁ、寝るだけだし』

「じゃ、堀口記念病院に来れるか? 一般病棟の108号室に山岡いるから」

『山岡ちゃん? どうした? 事故? ……あ』

河田はそこまで言って、思いついたらしい。

電話の向こうで黙り込んだ。

『でもさ、家族いるんだったら、大丈夫じゃね? 』

「頼む」

念を押すように一言だけ言うと、河田は重い沈黙を返した。

『や、なんかお前にそんな頼まれ事されるのって、初めてじゃね? ちょっと嬉しかったりして』

「山岡を1人にしないでくれ。締め切った部屋に閉じこめたら、危険なんだ」

『オッケ。あ、そうだ、話があるんだけど今いけそう?』

「悪い、すぐ移動するんだ。後でケータイからコールバックする。病院の中だと問題だから、コールバックは病室から窓開けて、顔出して対応しろ」

『……アクロバティックでなんか大変そーだけど、了解』

「じゃあ、頼んだ」

再度受話器を降ろす。

テレカを引き抜いて定期入れに押し込むと裏口へ向かった。

暗い病院なんて怖くなかった。

怖いのは、そんなものじゃない。

答えに辿り着かずに、膝を折って、悔し涙を流すことだけだ。
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