√セッテン
「やっぱり潤は、私の一番だよ」
「敦子、マスカラ」
「その手にはもう、乗らないんだからね」
いや本当に、と言おうとすると、霧島悠太の車がやってくる。
霧島悠太が敦子を見て、少し首をかしげた。
「黒沢君、泣かしたらだめだよ」
「俺のせいじゃないですよ」
一応断わっておく。
敦子も言及しなかった。
キラと、ライトに照らされて、敦子の胸元のオープンハートが銀色に光る。
霧島悠太はそれに気づいているのかいないのか
少し微笑んで敦子の耳元でささやいた。
「目、パンダになってるよ、飯島さん」
霧島悠太の言葉に、敦子はぎょっとして、サイドミラーを覗き込み、それから俺を睨んだ。
「……マスカラ落ちてるって、ちゃんと言っただろ」
俺は肩を少し上げて言ったが、敦子には通用しなかった。
車中で敦子の鏡を持たされながら、ちら、と敦子の足をみた。
痛みはもうないのかと聞いたら、痛いけどそれこそ寝てられないよ。
と敦子が鏡で目元をティッシュで擦りながら返答してきた。
「俺を探したとき、走ったんだろ?」
敦子の鏡は、これまた敦子の好きなANNASUIの黒い鏡だった。
それを持ち、化粧台代わりになりながら聞くと、敦子は黙って頷いた。
流れる景色を敦子越しに見て、海沿いを走っていることを把握した。
運転は霧島悠太、ナビは堀口俊彦がしていて
どこかに向かっているようだった。
敦子は涙で落ちたマスカラをこすり取ると、顔を上げた。
「無理させたな」