√セッテン
「いぃえ、とんでもございません」

敦子は少し胸を張って言いながら、鏡を片づけた。

「でさ、霧島さん、どこ行くの?」

敦子は運転している霧島悠太に視線を投げる。

「アルバイト雑誌のOLIVEの、あの色の表紙を配っているのは、北宮地区だから、調べきれてない残りの4店を夜のうちに見てしまいたい。もしそれでも見つからなければ、次の手に移らないと時間がないだろう」

正面の赤信号に合わせて、霧島悠太の色素の薄い瞳に赤い色が差込む。

「それでも見つからない場合は、どこを探せばいい?」

堀口俊彦が、静かに呟いた。

「……俺はどうすればいい、霧島さん」

言葉にはまだ、強さがあったが、震えていた。

霧島悠太の瞳に差込む光が、碧へと変わる。

「そしたら、あなたがムーントピックで犯人を待ったように、俺たちも蔵持七海を待つ。そして守り抜けばいい」

「……全ての手を尽くしてもなお、見つからなければ、待つしかないね」

俺の言葉に、霧島悠太が続けた。

「でも、見つかるよ」

確証のない敦子の言葉に、助手席の堀口俊彦が小さく笑った。

「見つけよう」

「そうだな」

堀口俊彦は、敦子が続けた言葉に優しく頷いた。

俺は暗い商店街を抜けて、北宮地区に入っていくのを確認して、目を閉じた。

車が止まったのはそれから10分ほどした後

しんと静まったビル街の駐車場に、車は止まった。

車から降りて、周囲を見回す。

「手分けしますか?」

「止めよう。君の二の舞はもうゴメンだ。残り4件を、丁寧に探そう」

霧島悠太は、俺の提案を丁重に却下した。
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