√セッテン
「愛する人を、君なら殺せるかい?」

「殺せるワケないじゃないですか。そんな考えがあるなら、発狂してるとしか思えない」

「歪んだ独占欲、ってヤツだろう?」

堀口俊彦の言葉に、敦子は頷いた。

「君は、愛する人が、人を殺すと、信じられるかい?」

霧島悠太は、言いながら遠くを見た。

「もしそうだとしても、最期まで信じてあげるのが、愛した人間の責任だと思わないかい? 信じる力を持てるのは、愛してこそだよ」

「…………」

「僕は信じてるよ、七海はそんな子じゃない。傷つけられる痛みを知ってる。癒すことの大切さを知ってた」

「……その」

俺はやっと口を挟んだ。

「その痛みも、大切な気持ちも、さらに越えたところに答えがあるのかもしれないな」

「なにそれ、無我の境地?」

敦子の言葉に、笑った。

「憎しみとか、苦しみとか、そういうものは常に表面にはないもんだろ。ふとしたきっかけで生まれて増殖するもの。
蔵持七海には、霧島さんも知らない、深い領域があったんだ。霧島さんにとって学校での出来事は、不可侵領域だからな」

敦子と山岡が口論をしたあの日のこと

詳細は未だに分からない。

誰にでも、分かったつもりの相手の中の闇を

見ることはあると思う。

ただ、蔵持七海の暗闇は

あまりに大きくて

彼女の影さえも飲み込んでいるような気がする。

「女は特に、裏表あるしな」




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