√セッテン
目が覚めたのは、霧島悠太の車の中だった。

助手席から跳ね起きる。

目の前は明るくて、目がくらんだ。

運転席には敦子が横になっていて、額には濡れたハンカチがのっていた。

周囲を見渡すと、車の前で霧島悠太と堀口俊彦が話し込んでいた。

助手席を開けて外へ出ると、2人が俺の存在に気付いた。

車は北宮のビル街から移動して、コンビニの前に止められている。

「あぁ、もう平気かい? 」

霧島悠太がタバコの火を消してこちらへやってくる。

「俺、倒れました? 」

「病み上がりだから、しょうがないよ」

「敦子は……」

「まだ横にしておいた方がいいよ。辛そうだ」

「アムリタは今、換気中だ。少ししたらまた散策する……けど、お前は来るなよ」

堀口俊彦は言って俺を見下ろす。

「……少し、休みます」

反抗する理由もなく、そう言って俺はコンビニへ視線を向けた。

「飲み物買ってきます」

「あぁ」

2人の間をすり抜けて、コンビニへ入る。

冷気がぬるくなった俺の体を包んで冷やす。

むしろ鳥肌がたった。

鳥肌がたつ感覚が、嫌な記憶を呼び戻す。

蔵持七海の歌。

閉じこめられた暗闇の檻の中

重い呼吸……

冷えたオレンジジュースを買って、コンビニから出る。

助手席に戻り、冷えたオレンジジュースを口に含む。


死んでいた脳が、生き返るようだ。


安堵にも似たため息をして横になる。
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