√セッテン
蔵持七海も、俺も喋らない。

というより、俺はむしろ手を動かすこともできない。

視線を自分の体に投げると、四肢はちゃんとあった。

たまに夢のせいか、自分の体を認識できない時もある。


「夢にまで出てくるなよ、蔵持」


砂の上だった。

白砂海岸だろうか。


蔵持七海は、黙って砂浜を歩き出した。

海は暗く、夜の海のはずだが

砂浜は妙に白く、蔵持七海の白い足と溶け込んでしまいそうだった。


俺はゆっくりと蔵持七海の歩調に合わせて歩いた。

早くも、遅くもない、丁度いい歩調だ。


波の音が、今さら聞こえてきた。

音もなく風に煽られる蔵持七海の髪と同じように、波は寄せては引いた。


蔵持七海の足が止まった。

俺も合わせて止まる。


ガラスの瞳の、その先を見た。


誰かが手を振っていた。

誰だろう。俺は知らないが、年は俺に近いみたいだ。


「行かないのか? お前に手振ってるんじゃないのか? 」


手を振っていたのは、男だけだったが、となりにいた女もこちらに手を振ってきた。

飽きることなく、ずっと。
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