√セッテン
この曲は知っている。

"強く儚い者たち"

「蔵持!」

水に入った感覚が、酷くリアルだった。

ティアラのように蔵持の頭上を飾っていた花が落ちて、水面に浮いた。

赤いダリアが、波に煽られて

海上でくるくると回転する。

血のようだ。

「蔵持」

蔵持七海は、俺を見た。

目線が、やっと合った。


夢だからか、ひどく自分勝手な展開に思えた。



大好きだった、と蔵持七海の唇が動いた。



音はなかった。

でも、蔵持は、間違いなく

大好きだった、と言った。


蔵持七海を、抱きしめた感覚があった。

花の香り

そして潮の香り

波の音がひどく耳に残る夢

目が覚めても、やはりいつも通り、寝た心地がしなかった。

うっすらと瞳を開ける。

運転席にいた敦子の姿は無かった。

ゆっくりと起き上がると、空が明るくなっている。

「…………」

夢と現実の合間で、ぼんやりと俺は自分の手を見つめた。

抱きしめた感覚が鮮明に残っていて

ぎゅ、と瞳を閉じた。
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