√セッテン
アムリタから絞り出されるようにして出ると

空は白んできていた。

夏の、また暑苦しい1日が始まる。

「…………」

霧島悠太は外に出るなり、地面へ崩れた。

敦子も苦しそうにむせていて、堀口俊彦が水を片手に背をさすっていた。

俺は、呆然と立ちつくしながら、中に比べればいくらか清浄の空気を吸った。


「結局僕は……何もしてあげられなかった……」


涙に混じって、霧島悠太が呟く。


俺は各々を見ると、黙ってアムリタの正面へ回った。

うち捨てられたアルバイト情報誌OLIVEを踏み越え、コンビニの前に置かれていた公衆電話を手にした。

町中ではあまり使われる機会もなくなった遺物だったが、3つの数字を押した。

状況を警察に話ながら

俺は公衆電話の側面を人差し指でカツカツ、とリズムをとりながら叩いた。


ゆっくりと、気持ちが落ち着いてくる。

状況を客観的に把握して、話を続けられる。


大丈夫だ、頭はちゃんと動いてる。

アムリタの名前と場所を告げ、俺は受話器を置いた。

会話が終わる頃には、もう気持ちも落ち着いていた。

時計を見ると時刻は早朝6時過ぎ

いつも起床する時間だった。

霧島悠太にも冷たい飲み物を渡した方がよさそうだ。

俺はそのままコンビニに入って、冷えた空気に身を包んだ。

アムリタのスタッフ出入り口に戻ると、敦子の状況は落ち着いていた。

青白い顔をしていたが、それは睡眠不足のせいだろう。

敦子に冷たい紅茶を渡して、霧島悠太を見た。
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