√セッテン
霧島悠太はアムリタの外壁に背中を預けて、足を放り出して地面に座っていた。

真剣な表情のまま、目線は虚空を見つめていた。

「どうぞ」

頭が冴えると思って差し出したオレンジジュースを、霧島悠太は虚ろな視線で断わった。

美味いのに。

それを見て、堀口俊彦が少し量の減ったミネラルウォーターを差し出した。

「こんな状況で、そんな甘酸っぱいものよく飲めるな」

「……頭が冴えると思って買ったんですけど」

俺はハッキリそう言ったが、堀口俊彦には納得できなかったらしい。

こういう時は水にしろ、と言われた。

「今警察に連絡しました。蔵持七海はここから解放されるはずです。おそらく、さらに詳細を話さなければいけなくなると思います。日をおいて聴取することは可能だと思いますが……」

「何を話せばいいんだろうね……」

霧島悠太は言って、低く声を漏らした。

「七海は死んで、死の待ち受けを生み出して、僕らがそれを追っていると、そんなことを話すって?」

自嘲気味に、叫ぶ。

悲痛な声色だった。

「知っていいことと、悪いことが世の中にはあるはずです」

俺は一言そう言って、ポケットからハンカチを取り出して霧島悠太に差し出した。

「ただ、俺たちは蔵持を捜していたという真実を話せばいいだけです。死の待ち受けは関係なく……
あなたは愛する人を、堀口さんはクラスメイトを、俺と敦子はあなたに協力を仰がれて」

霧島悠太は、色素の薄い瞳を開いて、黙り込んだ。

「そうだね……僕が、取り乱したって……七海が帰ってくるわけじゃない」

ゆっくりとミネラルウォーターを口にして、霧島悠太は続けた。

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