√セッテン
「一刻も早く、七海をここから解放してあげるのが今僕ができることだね……?」

「俺もそう思います」

言いながら、朝日に背を向ける。

「警察には、僕から話すよ。でも、ごめん、少しだけお願いをしていいかい」

「はい」

「少し泣いてもいいかな。我慢できない」

「…………」

俺が何かを言う前に、霧島悠太の瞳から、涙が浮かんで零れ落ちた。

浅く被ったハンチングを強引に前に押し込むようにして泣き顔を隠しながら。

彼は、俺のハンカチで涙を拭いた。

「大丈夫か飯島」

後ろで敦子と堀口俊彦の声がして振り返る。

敦子はすこしよろめきながら、霧島悠太と同じように地についた。

「あは……腰抜けちゃった」

紅茶を軽く仰いで、敦子は続けた。

「……死んじゃってた……ね」

「………………」

堀口俊彦は、何とも言えない表情をした。

「自殺、なのかな、他殺、なのかな」

「それは、調べれば分かる」

俺が言おうとした言葉を、堀口俊彦が返した。

「検死……するにしてもあの状態じゃ、難はあるだろうな。ライブハウスが地下で、いくらか涼しいところだったのが幸いだ。自殺か他殺かの区別はつけられるだろ」

堀口俊彦の言葉に、敦子は俯いた。

「敦子」

俺は霧島悠太の傍から離れて、敦子に近づいた。

「何?」

「俺の声、聞こえてるな」

敦子ははっとして、耳に手を当てた。

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