√セッテン
「ケータイ、今あるか?」

「え?あるよ。当たり前じゃん」

敦子は言ってへたり込んだまま、制服のポケットに手を入れた。

敦子の手がポケットから出ると同時に、ストラップについたマスコットが揺れた。

「死の待ち受けは?」

「えっと……」

敦子が言って、ケータイを開こうとする。

堀口俊彦も、ポケットからケータイを取り出して、止まった。

「景」

堀口俊彦が、息をするように自然に、彼女の名を呼んだ。

敦子は、ポカンとして画面を見つめていた。

「死の待ち受けが、ない」

「貸せ」

敦子の言葉を聞き終わる前に、ケータイを取り上げる。

敦子のケータイの待ち受けは、有名なネズミの待ち受けだった。

暫く発信と着信、画像フォルダをチェックしたが、死の待ち受けの影はどこにもない。

「堀口さんのは」

「ない。消えてる」

堀口俊彦が言って俺に画面を見せた。

そこには渋谷景との2ショットが写っている。

渋谷景は、こんな風に笑う人だったのかと思うくらい、幸せそうに笑う渋谷景が俺を見返していた。

「なんで……? 」

「蔵持七海を、解放したからだろ」

俺は言って敦子にケータイを返した。

「出せ、って蔵持七海は言い続けてた。この死の待ち受けが蔵持七海がSOSを発したものだとすれば……それが達成されれば……」

……あくまで、仮説だった。

最後まで、蔵持七海が作り出したものではないと

そういう可能性もあったのだが

最後に表示される宣告、そして全ての待ち受けを通してある撮影状況共通点から

俺の中で蔵持七海が生み出したものだと、ほぼ確定だった。

蔵持七海を、解放することができたら、死の待ち受けは終わる。
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