√セッテン
だが、正直これで止まるのなら、よかったと胸をなで下ろすだけだ。

「死の待ち受けの意味はなくなる」

日が昇る。

差込んできた大陽の光に、少し目がくらむ。

その光に合わせて、アムリタ入り口に車が止まる音がした。

警察が来た。


全員が、不思議な安堵に包まれた。


ペットボトルが空になるころ、簡単な事情聴取は終わった。

まだ後ろで、堀口俊彦が話をしていた。

警察が到着してから、しばらくして大きな車が寄せられる。


車から出てきた人たちは白衣を着ていて、まっすぐアムリタへと吸い込まれていく。

固く閉ざされていた正面のドアも開け放たれ、蔵持七海を搬出する準備がされていた。

俺は、その騒がしい様を見ながら、スタッフ出入り口からアムリタへ入った。


スタッフ通路には、一番にかけつけてきた警察の日比野という女性がメモをしながら敦子の割った天窓を見上げていた。

「……あぁ、通報してきた子だったわね。もうここは立ち入り禁止よ。また後日話を聞くから、今日はもう」

「すみません、もう一度だけ、中を見させてもらってもいいですか? 」

「なぜ? 」

「彼女を見つけたときは、暗くて、中がどうなっているのか、彼女がどんな思いを抱いたまま死んだのか分からなかったからです」

「君が知る必要はあるの? 」

「なぜ、ないと思いますか? 」

俺は即そう切り返して、日比野を見返した。

日比野の少し茶けた瞳は、俺を暫く見つめていたが、手にしていたメモを閉じて、足を進めた。
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