√セッテン
「決して触ったりしないで、モノを動かすのもだめ。仕事をする彼らの邪魔をしたら、NGよ」

「はい」

日比野の後ろについて、スタッフ通路を抜ける。

エントランス、そしてチケットカウンターは明るかった。

日が上がってきたのもあるが、開け放たれた正面入り口から差込む光が、場を明るくしていた。

平衡感覚が狂う市松の床、白いソファ、止まった時計

ぐるりと見回すようにして、作業をしている警察のスタッフの横を通る。

「検案の手配は? えぇ、そうね、高梨さんが来たら連絡してちょうだい」

日比野がケータイで通話していたスタッフから声をかけられ対応する。

俺はこじ開けたホールへの入り口にさしかかり、階段を見下ろした。

階段は明かりが灯されていた。

ゆっくりと足を踏み入れる。

階段には色々なものが散らかっていた。


リップ……ハンカチ……お菓子の袋……

死の待ち受けカウント5にも、菓子が写っていた。

蔵持七海の、ものなのだろうか……

「足元、気をつけなさいよ」

「はい」

床には、写真が落ちていた。

蔵持七海と、男2人、女1人。

……甘川充と、吉沢アヤト……池谷美保、か

はじめて顔をみる、死んだ3人。

夢の中で、蔵持七海に懸命に手を振っていた3人が

こんな顔をしていたような気もするが

よく覚えていなかった。

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