√セッテン
写真の中の蔵持七海は、微笑むというより少し恥じらった視線をカメラへと向けている。

「拾っちゃだめだからね」

「はい」

さっきから、単調な返事しか返していないと思いつつも、中へ踏み込んだ。

蔵持七海はもういない。

広さは10㎡くらいだろうか。明るみに浮いたホールに、俺はまた無言で立ちつくした。

床を見回すと、点々と落ちるゴミの合間に、立幸館のバックが見えた。

蔵持七海のカバン……

場を荒らさないように気を配りながら、近づく。

中に入れば入るほど、異臭は鼻を突いたが、嗅覚をシャットアウトしてカバンを覗いた。

日比野が後ろから口元にハンカチをあてつつ俺の横につく。

触るな、と言いたいのだろう。

蔵持七海のケータイを確認したかったのだが、それを日比野にどう説明しても、納得はしてもらえないと答が出てる。

心の中で舌打ちをして、周辺にケータイが落ちていないか入念にチェックする。

天井には蔵持七海が首を吊った黒い照明が、縦に一列3つ並んでいた。

死の待ち受け、カウント15.8を写し続けたフローリングの床は、薄いホコリと汚れの層ができあがっている。

壁に視線を投げて、思わず痙攣した。

そこにはさすがにぞっとする光景が広がっていた。

白い壁に

あの血文字が書かれていた。

左から順に、1、2、3……そして最後は15。

「何だろうねぇ、遺書とも思えるけど……それとも元々こういう壁紙だったのかね」

こんな悪趣味な壁紙をフロアに貼るマスターがいるのか

やめてくれ

だが、あの血文字は、ここの数字だったのか

結局これが何の意味があるのかは分からないが……

限界まで近づいて壁紙を見る。

黒ずんではいるが塗料ではない、やはり血だ。

血……?

そういえば、まだ見てない場所がある。
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