√セッテン
こんなところに血の跡があるなら、もっと残っていて良い場所が、ある。

「ホール入り口の、ドアを……戻って見せて欲しいんですが」

「さっき見たでしょ」

「いえ、エントランス側からではなくて、こちら側のドア側面を見たいんです」

俺は言って、少し声を荒げた。

死の待ち受けカウント10が示した、あの爪のない指

血の滴る 細く白い指


「少しだけ、お願いです」

頭を下げると、日比野は無言で階段の方へ歩き出す。

場を乱さないようにして階段を上る日比野が、開け放たれたドアを越えてエントランスへ出た。

「少しだけ閉めるわ。君は触っちゃダメよ。手袋してないんだから」

手伝おうとした手を叩かれ、ドアが動く。

ゆっくりと閉められる黒いドアが、俺と外界を切り分けていく。


胸が高鳴る。

まっすぐにドアを見つめる。

この密室から出ようとするならば、かならずこのドアに手を触れるはず。

蔵持七海が、何か残している可能性は大きい。


さきほど考えた通り、小さな窓からはエントランスの白いソファが見えた。

カウント13の光景が、みごとに目の前で再現される。

そしてドアには、血が

かきむしったような、線が無数に引かれていた。

銀色のドアノブについたこげ茶色のもの。指で擦ればパリパリと剥がれて、落ちそうだ。


「わたし」


黒いドアに無数に走る血の線の中

血文字を見つけて音読する。


「私、死ぬの だけど……お前も同じ思いをして死ね」


最後の死の宣告は

俺たちが開いた蔵持七海の解放の扉の裏にそう描かれていた。


蔵持七海は、ここで生きてた。
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