√セッテン
しばらく、誰とも話がしたくない気分なのだろう。

止めなかった。

俺たちは解放された、だけど霧島悠太は、解放されなかった。

全員が納得できる答えなんて、現実にはないのだとそう叩きつけられた気がしたが、霧島悠太の言葉通り、山岡に伝える必要がある。

俺は病棟へと向かった。

まだ静かな病院を、1人歩く。

蔵持七海は、助けをもとめる為だけに写真を撮って送っていたようだ。

一体どこで、死を運ぶ呪いの待ち受けと変わったんだろう。

頭の中で立てたフラグやポスト・イットを張り替えたりしながら一般病棟の入り口に立った。

入り口は閉められていて、面会は13時からと書かれていたが、俺は無視した。

本来なら、今でも俺はベッドで寝ているはずなのだから、問題ない。

途中、エスケープして拝野とかいう担当医にはバレたらしいが、この際どうでもいい。

病室はどの部屋もシンとしていた。

自分の病室のドアノブをひねり、中へ入る。

カバンを荷物置きに置こうとして手が止まった。



「おはよう、潤」


閉められていたカーテンは全開になって、病室には白んだ朝日が差込んでいる。

山岡がベッドに腰掛けてニコ、と微笑んでいた。

逆光に少し目を細める。


「……山岡か」

「んー、お帰りなさい、かな……」

山岡は少し、はにかんで笑った。

「河田は?」

「河田……?あぁ、いないよ」

山岡は首を少しかしげた。

ちらりと山岡の服の間から包帯が覗いた。
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