√セッテン
「でも、誰も"私"を助けにきてはくれなかった、辿り着かなかった」

ぎゅっと握りしめた爪が痛い。

「メールは確かに届いたけど、美保が、口論したことで気を惹いて欲しいからそんなメール送ってる、とかなんとか言ったんでしょうね?」

蔵持七海はそこでさらに深い傷を負った。

「それに、アムリタは……廃屋で……たどり着ける訳なんてない。美保は、わざとそういう場所を選んだんだから」

メールが届きさえすれば

誰かが助けてくれるという

最後の最後の望みすら、親友の……池谷美保の歪んだ感情で絶たれたのか。

「私は、たっぷり同じ、苦しみの15日間を味あわせて、3人を殺した。美保はね、ずっと追いつめてあげたの。ゴメン、て泣いて謝って……許せるわけないのに」

√の女は、トン、トン、と指と指を交差して歌うようにして続けた。

「それで美保ってば、半分くらい発狂しちゃって、家の窓から落ちちゃった。まだ生きてたからね、引きずって……ムーントピックに連れていった」

淡々と、流麗な声色に

血と土の香が交じっていく。

「泣いてた。痛い、辛い、苦しい、怖いって」

当たり前だ。窓から落ちて治療もせずに廃墟に引きずり込まれたら

「お前より状況が悪いだろう」

「でも、美保は幸せだよ、甘川君やアヤト君が側にいてくれたもの」

そして

ムーントピックに3人の影が並ぶ。

死んだ蔵持七海と、対峙する。

「そこで、3人を殺した。ぜーーーーーーんぶ」

√の女は、パン、と重ねていた手を合わせ

それから、ぎゅっと握りしめる。

「最後は私と同じ、暗いライブハウスで首をくくってやったのよ」

√の女が微笑んだ。

山岡の顔をした√の女の笑顔は

氷のように冷たくて

そして磨いだ刃のように鋭く光っていた。
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