√セッテン
「もうやめろ」

吐き出すように、声をあげた。

だが、√の女には届かない。

「あとはもう、どうでもよかったのよ」

「やめろ」

「気が済むまで、人を殺したかった。"私"が味あわされた苦しみをまき散らしたかった」

√の女は、手を広げて続けた。

「だって"私"をあんなにも苦しめた世界に、優しさも美しさもあるわけがない、生きて、人と接点をつくることは、利用し、裏切り、傷つけるためだけの繋がり。わたしはその全ての連鎖を消すためにいるとそう気づいたの」
 √の女の顔に、狂気の光が宿り、そして妖艶とも思える笑顔が宿る。

「美保の友達には、美保と同じ死に方」

歌うように続けた。

「美保の罪を、ずっとずっとつなげて広げていこうと思って。それにね、"わたし"が死にそうになってた時は、助けてって泣いても誰にも声が届かなかったのに、大切な人に繋がった人。羨ましくて、許せなくなってメチャクチャにしたりもした」

森先輩、渋谷景

そして俺の把握しきれていない人たちの末路。

「そこには優しさがあったのよ、愛があったの、"私"が得られなかったものが、存在してた!」

「蔵持!もういい!」

「"わたし"より脆い人は、私が現れただけで発狂して、死んじゃう人もいたよ。ちゃんと15日、味わって欲しいのに」

「もう、いいから! やめろ!」

俺はできうる限りの声を上げて√の女へ怒鳴りつけた。

√の女は、きょとんとして俺を見た。

「なんでそんなに潤が怒るの? 森真由美のこと? 渋谷景のこと? それとも山岸絵里子のことを怒ってる?」

「お前がやってることは、0にひたすら数字をかけてるのと同じだ」

「でも、0っていう答えにはなるでしょ、それが真理よ、潤」

吐き捨てるように√の女は言った。

「それに、答えのみえない……"0"に、潤は挑んだんでしょ? 死の待ち受け、形のない私、アムリタでうち捨てられた私を捜そうとしてくれた」

「俺が求めた答は、解決という答えで、お前みたいな非生産的なものとは違う」

乱れていた呼吸を整えながら、√の女を直視する。

「潤は、美保の味方をするの? 私が悪いっていうの?」

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