√セッテン
「大切な人は、死んでも守らなくちゃだめだ。山岡がお前のそんな配慮を喜ぶとは思わない」

「千恵の強がりのこと? そんなの、詭弁! 死んで守れるものなんて、何もないのに」

動かない俺に、√の女が動き出した。

飛び込んできた√の女との間合いを詰めて両手を押さえた。

「お前のために、泣いたヤツだっているんだ、お前はそんな……霧島悠太のことまで、殺せるのか?!」

「……ゆぅ?」

√の女は首をかしげた。

「ゆぅは、生きてたんだ。"私"は死んだのに。 でもそれは、ゆぅが解き放たれたっていうこと。"私"を好きになる呪いに翻弄されていただけよ。孤独な"私"が呪いで引き止めていただけの、中身なんてない愛。ゆぅは本当の私なんて知らない。知ろうとして近づいてきてくれたのは、潤だけだよ?」

あの必死の行動すべてが、呪い? そんなわけがあるか。

√の女の手に力が籠もる。

競り負けそうになった瞬間、シャツの胸ぐらを掴まれた。

「千恵とはとっても気が合うわ」

にっこりと√の女は笑うと、俺を病院正面玄関へと投げ飛ばした。

体が浮く感覚

前後感覚が麻痺した瞬間、思い切り自動ドアへと叩きつけられた。

「千恵は早くから同調して、私がアムリタで送っていた日々を夢にみていたくらいだもの」

背中に激痛が走る。

思い切りむせると、余計に体の中からギシギシと軋む音がする。

「どうせ死ぬなら、思いを遂げてからの方がずっといい。潤は私が、千恵が殺してあげる」

√の女は言って俺の目を見た。

黒い瞳、だが、ガラスの瞳。

「そうしたら、永遠に繋がれたままでいられるわ。殺し、殺された関係として」

枯れた花のように生気がなく、どす黒い狂気がうごめいてる。

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