√セッテン
カコン、と音をたてて山岡のケータイをテーブルに戻す。

そのとなりのケータイは、有名なネズミのマスコットがついていた。


敦子も死んだ。

俺は救えなかった。


敦子は誰の声も届かなくなった。

何度ケータイを奪おうとしても

『潤と私のプリクラが貼ってあるの、触らないで』

何度声をかけても

『近づかないで! こっちに来ないで!潤が助けてくれる、あんたなんかに負けない』

誰の言葉も受け付けようとしなかった。

ただ、敦子は、最期の最期まで俺に電話をしないと叫び続けた。

「どこにいても、敦子の傍には潤がいてくれるのね。敦子は信じてるのね、でも本当に死ぬ瞬間まで信じていられたのかしら」

星型の照明に首を吊って揺れる敦子の姿が

網膜に焼き付けて、声もなく膝をついた。

敦子のテーブルの上には俺が敦子にあげたオープンハートのネックレスが光っていた。

敦子の最期の発信は、蔵持七海で、最期の着信は敦子の友達だった。


「敦子」

自分の声が聞こえない。

暗い部屋の中で、水槽だけが青白く輝いている。

「山岡」


花火を一緒に見るって約束したのに、見てるのは俺だけだった。


< 330 / 377 >

この作品をシェア

pagetop