√セッテン
さき程の夢が、あまりにリアルで胸がドキドキと高鳴ったままだ。

√の女はそれを感じたのだろうか、微笑みながら続けた。

「千恵と敦子が死んじゃう夢だったんでしょ?」

「……」

「潤にとって最悪の結末。でも一番自然な結末」

「自然なワケ、あるか、俺はそんな答えは許さない」

√の女は笑っていた。

アムリタで生まれた、憎悪の感情に従って動くことだけが√の女の存在理由なのだ。

俺が許そうが、許すまいが、関係ない。

ただ、皆、絶望の中死ねばいいと、そう思ってる。

「潤、私は潤のことが好き、潤の中に、生き、死を見届けたい」

√の女は言って、ポケットから折りたたみのケータイを取り出した。

山岡のケータイ。

そこには、死の宣告の待ち受けが表示されていた。

「そこに行くね」

「やめろ!」

√の女がやろうとすることが分かって声を上げた。

食いかかろうとするが、手枷がそれを邪魔した。

ピ、と無機質な電子音がする。

「千恵の、最後の発信は、潤、あなた」

カン、と景気のいい音がして、山岡は屋上の柵に足をかけた。

「千恵も嬉しいはずだよ、自分の好きな人を、自分で殺せるんだから……」

ここから落ちて、山岡の死を完遂させるつもりなんだ。

そして、最後の発信で、死の待ち受けは、俺の元へやってくる。

山岡が死んで、最後の発信を経由して√の女が、俺の中に入ってくる。

山岡はそんなこと望まない。

自分を犠牲にしても、俺を守ろうとしてくれていた。
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