√セッテン
現実になんてしないでくれ。


「やめろーっ!」


....♪..♪.♪...♪



急に山岡のケータイが鳴り、√の女の動きが止まった。


「……なんで? どうして、助かったのに、死のうとするの?」


俺は息が上がったまま顔を上げて、山岡のケータイを見た。

サブウィンドウが着信で輝いて、発信者の名前を表示していた。


『飯島敦子』


√の女は、一転、にっこりと笑うと、通話ボタンを押した。

「どうしたの? 敦子。足はもう大丈夫?」

その対応は山岡そっくりで、何も知らない人間が聞けば山岡そのものとしか思えないだろう。

√の女は会話を楽しんでいるようだった。

「潤? いるよ、私と一緒……」

√の女は言ってケータイのスピーカボタンを押してこちらへ近づいてきた。

「潤の声が聞きたい? どうしたの? 変な敦子」

『霧島さんに聞いてるんだから、あんた、千恵じゃないんでしょ!?』

スピーカーから、敦子の声が聞こえる。

雑音として入った救急車の音が、屋上からも聞こえた。

生きて……敦子が傍にいる。

『今、霧島さんとあんたの乗ってたタクシー追ってきてる! 潤に何かしたら、あんたのこと許さないんだから』

√の女は敦子の罵声も笑ってスルーして、トン、と地面にケータイを置いた。

「敦子! 西高の屋上だ!」

声を上げると、√の女は俺の頬を叩いた。
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