√セッテン
屋上のドアが勢いよく開いた音で、意識が戻る。

完全にフェードアウトしていたようで、目を開けると太陽に目を焼かれるようだった。

「……潤!」

近づいてくる敦子の声に、顔をあげると、くら、と視界が歪んだ。

次に意識が戻ると、両手が自由になっていることに気づいた。

「若っち!! 潤が!」

若生……あのデタラメ保健医を呼んできてくれたのか

なら、助かりそうだ。

ぐい、と体を持ち上げられて、引きずられる。

屋上から階段に入ると、床へ落とされた。

日陰というだけで、ひどく涼しく、冷たく感じた。

「飯島、水持っておいで、脱水症状が起きてる」

待て

声が出なかったので、敦子の腕を捕まえた。

「え? 何? 」


「水、より、オレンジジュースが、いい」


「…………」

敦子は一瞬眉をひそめたが、若生が後頭部を叩いた。

「我慢して水飲みな」

敦子に水、と若生はもう一度言う。

階段を急ぎ足で降りていく敦子の姿をぼやけた視線で送ると、目を閉じる。

頭の奥が、ぐるぐると円を書いている。

ケータイの着メロは、もう鳴っていなかったが、頭の中ではまだ鳴り響いていた。

若生はその間に俺の腕をすくいあげて、処置をしてくれた。

最近の子のプレイは危なっかしい、とかなんとか、アホなことを言っていたが、記憶には残らなかった。

耳の奥で、救急車のサイレン音、そして敦子が階段を駆け上がってくる。

浮くように軽いが、とても騒がしい敦子の足音。

目を閉じていても分かる。

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