√セッテン
「潤、水だよ」

敦子が言って、ペットボトルのキャップを開放する。

うっすらと瞳を開けた俺に、敦子は手にしたペットボトルと俺を交互で見る。

「あー、えっと……若っち、ちょっとあっち向いてて」

少し間を空けて、敦子は水を飲むと、そのまま俺に口移しした。

敦子のゆるい巻き髪が、首筋をくすぐる。

柑橘系の香りがした。山岡の香りとは少し違う、レモンティーのような香り。

冷たい水の感覚が、体にしみていく。

水の冷たさが、痛いくらいだった。

「飯島、やるねぇ」

若生の楽しそうな声に、敦子はなにか反論して、俺の顔の横に水を置いた。

水って

意外と甘いんだな

「敦子」

「何」

「……それ、外したりするなよ」

覗き込んできた敦子のデコルテから滑り落ち、俺の目の前で銀色のオープンハートのネックレスが揺れていた。

「外すわけ……ないじゃん! 死んだって外さないよ!!」

「そ、だな。お前は、そうだよな。夢で、それ、外してたから」

「そんなの夢だよ! 夢は現実じゃないよ」

その言葉に、とても安心できた。

ふ、と、また意識が途切れる。

敦子と若生の声がしたが、もう聞こえてこなかった。

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