√セッテン
軽い金縛り状態から開放されてドアノブをひねると、明るい病室からの光が目に突き刺さる。

細工ガラスの窓から、影が消えた。

山岡はベッドで寝ていて病室に影はない。

山岡の寝具に乱れはなく、ずっと眠っていたとしか思えない。


ひや、と何かが俺とドアの間を潜っていった感覚がして振り返る。

そこには点滴を下げた患者が廊下を歩いているだけだった。


「黒沢?」


声がして振り返ると、堀口俊彦がいた。


どうした?と訝しげに聞かれると、いや、と首を振った。

「山岡が目を覚ましたのか?」

「いえ、蔵持……√の女が、いました」

「え? おい、大丈夫なのか?」

「はい、多分……彼女はもう、ここにはいません」

「何か、ヤツに言ったのか?」

「霧島さんが亡くなったこと、伝えました」

は、と堀口俊彦が息を飲んで、眉間に皺を寄せ瞳を閉じた。

訃報を聞いていなかったのだろう。

俺も視線を落とした。


彼は蔵持七海を守ったのだ。

彼女の、表の蔵持七海の生きてきた事実をこれ以上汚さないように。

それが彼が蔵持七海に示せる、不動の答えだったから。

√の女もそれは、分かったはず。

俺の言葉に、堀口俊彦もゆっくりと頷いた。

「そうだな……呪いがあるのなら、奇跡だって必ず存在するはずだ。霧島さんが……導いてくれた奇跡だ」

堀口俊彦はそれから霧島さんの眠る部屋を聞いて歩いて行った。
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