√セッテン
「お前は山岡千恵だ、蔵持七海でも、√の女でもない」

山岡はやっと落ち着いて見せた。

たしかに、これは山岡だ、√の女じゃない。

「おかえり、山岡」

√の女が持っていた禍々しい黒い気配は、山岡の目線からは感じられなかった。

「私、みんなに、ひどいことしたね」

医者を呼んで、一息ついたとき、山岡はしゃべりはじめた。

無理に話さなくてもいいと言ったが、山岡は首を振った。

「河田くんにも、潤にも、敦子にも……霧島さんにも」

「覚えてるのか?」

「うん、夢を見てるみたいだった。私の体はそこにあるのに、少し離れてるところから、黙って状況を見てるの。無感情に見てるだけ……でも屋上から落ちると思った時、一気に視界が晴れて、私、戻ってこれた」

山岡は、無理矢理笑った。

「おかしいよね、信じて貰えないよね」

「今の俺なら、なんでも信じられるよ」

山岡は頼りなさげに微笑んで、俺の言葉に応えた。

夢だったらよかったんだけどね、と小さく呟いて、続ける。

「私の中に√の女はいたけど、そこにたしかに、私の意思もあったの。私の歪んだ考え方が、√の女と混じってマーブリングみたいになってたの、一緒になって……」


「なぁ」



「……何?」



「√の女は今、どこにいる?」

山岡は視線を自分の胸元に向けて、瞳を閉じた。
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