√セッテン
「もういないよ、私の心はもう閉ざされてないから」

でも、と山岡は言葉を濁しながら続けた。

「蔵持七海っていう√の女は、消えたけど、裏表は誰にでもあるから、完全に消えたりはしないよね。……でも、大丈夫だって、信じてるよ。誰にだって必ず、気持ちを受け止めてくれる人がいる。自分を見失わないで、負けたりしないよね」

静かに頷くと、山岡はほっとしたように微笑んだ。

人の心の密室を開ける鍵は、誰でも持っている。

病室のドアが、控え目にノックされる。

顔を上げると同時にドアが開く、敦子と堀口俊彦が立っていた。

「敦子」

少し警戒した素振りの敦子に、山岡が声をかけた。

「千恵……?」

「起きたのか、医者は呼んだか?」

2人はバラバラ、と話ながら病室に入ると、椅子に座った。

俺は立ったまま、窓の外を見た。

「千恵、本当に千恵だよね?」

「……うん。ごめんね、心配も、迷惑もかけた」

「さっき、霊安室で出たのよ√の女がっ、だから心配になっちゃって……」

「え?」

「一瞬、私を殺しに来たのかと思って、さ、叫びそうだったんだけど、すぐ消えちゃって」

「俺は気のせいだって言ったんだけど」

堀口俊彦は、言ってバツが悪そうな顔をして続けた。

「でも、蔵持が霧島さんのとこに来たなら、それはそれで、いいかと思うよ」

「気のせいじゃないよ、だってあれ、蔵持七海だってば、白い花冠の、白いワンピース!ね?蔵持七海だよね!?」

敦子は必死に堀口俊彦と俺に説明する。

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